まず、現代の企業が置かれている状況を考えてみましょう。18世紀に始まった産業革命以降、資本主義経済は徐々に勢力を拡大し、ついに世界の経済システムの中核を成すに至りました。特に、ミルトン・フリードマンの登場以降、株主の利益を究極目的とする資本市場主義は世界の経済発展を加速化し、私たちを物質的に豊かにしてきました。一方では、貧富の格差を生み、市場資本間の競争により、地球資源の過剰な掘削や化学物質による環境破壊を行った結果、地球のバランスにまで影響を及ぼし、各地で災害を巻き起しています。さらにはインターネットによって市場資本の膨張は一層、加速化されて負の側面が目立つようになってきました。この資本市場主導のルールの元、競争を強いられる企業の多くは取引先に負荷をかけつつ(そのしわ寄せは社員、業務委託先に行く)、株主(年金基金等の長期保有の機関投資家除く)目線での利益至上主義に陥り、重要なステークホルダーである社員の教育コストを削減するだけでなく、かつての日本企業の強みであった終身雇用(終身雇用を礼賛する立場ではありませんが……)も維持できなくなりました。この結果、社員の組織に対するエンゲージメントが低くなり、本質的な意味での生産性が低下(一歩踏み込んだ顧客の課題解決の提案ができない、イノベーションが起こらない等々)しています。巡り巡って社員が心からやる気が持てないから業績が上がらない、利益が出せないという、悪循環に陥っているのです。さらに、企業の平均寿命よりもビジネスパーソンとしての寿命が長い「人生100年時代」が追い打ちをかけ、優秀な人材ほど自分のキャリアアップ中心に物事を考えるようになり、組織にいることにメリットを感じなければ次の場を求めて去っていく状況です。
また、経済のグローバル化によって世界は狭まり、インターネットによって多くの人々が繋がった結果、利害が国境を越えて複雑に絡み合うようになってきました。そして、ネットにより情報の非対称性が弱まるとともに、会社にとっての不都合な情報の拡散力が高まっています。企業対個人で見ると、個人の力が相対的に強まってきました。社内においてはセクハラ、パワハラによる内部告発の多発化がそれを物語っています。また、一ユーザーの言動によって企業業績は大きく影響を受けるようになり、サプライチェーン上で起こる一つの不祥事が、企業ブランドにダメージを与えることも頻発しています。
結局、こういった種々の問題を惹起しているのは、株主(一部)などの特定の利害関係者のみを過度に意識し、自社利益の最大化が良しとされる自由経済の名のもと、自己中心的で近視眼的な行動規範に順応する風潮を意識的・無意識的の如何に関わらず、是とするポジションをとってきたからに他なりません。実際に、それで利益を上げ続けることができる企業になれているかというと、多くはそうではなく、目先の数字を追いかけるのに苦慮しているというのが実態ではないしょうか。何か軸がズレていると多くの方々がお気づきのことと思います。本来、企業が持続的な成長を遂げるためには、企業全体のバリューチェーン上にある、あらゆる価値創造プロセスに関わる全てのステークホルダー、あるいは未来のステークホルダーに対して、協創的な関係が構築できている必要があります。ところが、多くの企業で、ステークホルダーの心からの協力、社会からの応援が得られないために中長期的な成長が実現できない構図が見受けられます。
はたして、これからの企業活動には何が求められるのでしょうか?ポスト資本市場主義の経営の在り方を考えるにあたっては、もともと日本の強みであり、江戸時代から連綿と紡いできた石田梅岩や近江商人の「三方よし(買い手よし売り手よし世間よし)」に代表される伝統的日本式経営の価値観の再解釈がヒントになります。ステークホルダーがさらに広がった今、求められるのは、企業の経営哲学、経営倫理の再確認、再定義です。ステークホルダーを包含する企業の社会的存在意義を見直すとともに、社員を始めとする全ステークホルダーとの対話による好ましい関係創出へと経営の再構築を行う必要があります。 企業がサステナブルであるためには、地球環境や、地域社会、取引先、社員、その家族、顧客といったあらゆるステークホルダーに配慮し、皆が幸せになれる矛盾のない最適均衡の創出において社会の公器たる経営を行うことが必要です。
しかし、ステークホルダーがマルチ化することによって、こちらを立てればあちらが立たないという、矛盾が生じます。こういった問題は社会における自社の存在意義を、もう一段目線を上げた観点から経営を見つめなおすこと、つまり経営を昇華することで解消できます。利害関係が複雑に錯綜し、ネット上に露出する現代においては、嘘のつきようがなくなり、本音と建前を使い分ける、二元的な経営ができなくなったということを意味しています。逆に言えば、あらゆる経営活動を一元的に統合する経営哲学と、誠実なる日々の実践こそが社会からの信頼をもたらし、かえって生産性が高い経営ができる環境が整ったと言えましょう。
言うのは簡単ですが、「社会の公器」という姿には、一朝一夕に辿り着けるものではありません。もちろん、上場企業の中には、統合報告書等で価値創造プロセスをわかりやすく書ききり、実践されている企業も少なからずあります。しかし、歴史のそれほどない新興市場の企業や、一般の企業がマネをするのは容易ではありません。そこで、当社はマルチステークホルダー経営に成功している優良企業だけでなく、身近な企業で、社会の公器たろうと努力をされている企業を、当社が取材し、発掘し、光を当てることで、参考にしていただこうと考えています。
私たちは自社が社会に存在する意義をあらためて見直し、努力されている良識ある経営者、経営幹部の皆様とともに、社会の公器をめざす経営に対する共感の輪を広げ、企業から企業へ、ステークホルダーとの対話を通じて相互評価を行い、信頼のネットワークを幾重にも広げていこうとしています。この対話を支援させていただくのがメディア企業としての当社の役割なのです。
つまり、ポスト資本市場主義社会におけるマルチステークホルダー経営を実践する、社会の公器たる企業の仲間を増やし、皆が幸せになれる健全な産業社会を実現すことが私たちのメディア・カンパニーとしての事業価値なのです。
社会の公器として全てのステークホルダーに愛され、
信頼される会社創りを支援するメディア・カンパニー